■ はじめに
中小企業診断士試験において最も難関な二次筆記試験。この壁を乗り越えるためには、あきらめずに継続的に努力することに加えて、幾つかのコツを掴む必要があると思います。今回は合格までの道のりをご紹介した後に、二次筆記試験突破に必要なものは何か、私なりの気づきをお伝えします。皆さんの合格に少しでもお役にたてれば幸いです。
■ 受験歴
平成15年度 一次試験 ○ 大手受験校に通学
二次試験 × 大手受験校に通学、少人数受験校の通信講座
平成16年度 一次試験 − 受験せず
二次試験 × 少人数受験校に通学
平成17年度 一次試験 ○ 少人数受験校に通学
二次試験 ○ AASに通学
■ 合格までの道のり
(平成15年度)
「一次試験は700点以上を取って合格する」ことを目標に勉強を開始しました。モチベーションを維持できたおかげで、模擬試験の成績もまずまず良く、順調に一次試験を乗り越えられました。ところが二次試験であっさり敗退・・・。焼肉屋の事例を皮切りに、何を問われているのか理解できず、何を書いたのかも覚えていない状態でした。
(平成16年度)
前年の敗因を自分なりに考えた結果、「与件文と設問文に対する深掘りができていなかった」「二次試験対策に取り組む時間があまりに少なかった」という結論に達し、この年は少人数クラスで二次特化型の勉強をすることにしました。一次試験を再度受験する選択肢もありましたが、自分を追い込んで二次試験で力を発揮しようと、敢えて一次試験は受験しませんでした。ただし財務など、二次試験で必要となる一次知識については継続的に学習し、一定水準を維持していました。
少人数の受験指導校を通して、事例問題に関する受講生同士のディスカッションや、業種・業界の幅広い知識など、実際の企業診断のベース作りにもなる学習を積み重ねました。模擬試験の成績もよく、自分の周りには楽観的な空気すら漂っていました。
ところが、意気揚々と二次試験に乗り込んだものの、またまた敗退・・・。当日の答案用紙には、業種特性や試験委員の理論まで踏まえて「この印刷会社はこうあるべきだ」という自分なり提案をしっかり書いたのに、あと何が足りないのだろう・・・。
(平成17年度)
平成17年度の学校選びには、かなり時間がかかりました。自分に不足している部分を補える学校を探す前に、自分に何が不足しているのかが全く見えてきません。そんなときに立ち寄ったのが、AAS合格者の答案分析会でした。
それまで各受験指導校が作成した解答を集めることはあっても、合格者の再現答案を見ようと考えたことが無かったため、再現答案のシンプル過ぎるとも思える内容に驚きました。しばらくは「自分の解答の方が良いのに」という気持ちがなかなか消えませんでしたが、冷静に考えてみると、「再現答案が自分のゴールであり、この差分を埋めることに1年を費やそう」と思えるようになり、再現答案を受け入れられるようになります。この頃には、AASを選択する決意が固まっていました。今から考えると、正解が発表されない試験制度において、合格者の再現答案を見ないことほど無謀な挑戦はないと思っています。受験指導校の解答例(どの学校のものも「模範解答」や「正解」ではなく、「解答例」だと思っています)は、試験当日に到底書ける内容ではありません。確固たる拠り所は「この再現答案で合格した人がいる」という事実です。
AASで学習するようになり、診断士試験に対して少しずつ冷静な目を向けられるようになりました。そして再現答案がシンプルと思えたのは、「1度読んだだけで内容が頭に入ってくるからだ」ということに気がつきました。この「頭に入ってくる」理由は、一つには与件文・設問文の言葉や一次試験で出てくる言葉の活用など、読み手の知っている言葉で書いてあるからであり、またもう一つは結論先出しや適度な文字数の文章構成となっているからでした。AASでの毎週の事例演習を通して、シンプルな答案を書くために自分に足りないものを、一つ一つ埋める訓練をしてきました。例えば、@フレームワークの活用による 80 分の効果的な時間の使い方、A問われていることに素直に答えるスタンス、B与件文・設問文や一次知識などに忠実な内容の構成、C論理の構造化による伝わり易い文章表現、などです。
しかし、「自分は与件文・設問文と一次知識を踏まえてシンプルに書けるようになろう」そう決めて事例問題に取り組むものの、やはり心のどこかで「実はそんなに単純なものではないのではないか」という疑問が湧いてきます。そういうわけで、AASの講座で事例を解き終わった後、いつも自分の書いたシンプルな答案に対して手ごたえがありませんでした。ただ、そうして書いた答案に対して、講師陣の方々からは評価をして頂いていたので、徐々に自信がついてきました。そして一次試験を終えた頃には、時間の使い方や考え方、書き方など、どのような事例が来てもある程度の対応(無難な得点がもらえる答案作成)ができるようになりました。
直前期はとにかく過去問を何度も解き直しました。本試験レベルの問題では、事例企業の状況が淡々と述べられており、SWOT分析をしようにも、これが機会なのか脅威なのか、また強みなのか弱みなのかが判断しにくいなど、与件情報のレベルが曖昧です。そのため自分の頭も本試験モードに変えておく必要がありました。
いよいよ二次試験当日。準備は万端のはずでしたが、試験終了後は相変わらず自分の答案に手ごたえのなさを感じました。しかし今となっては、思考を与件文・設問文と一次知識の範囲に守った、シンプルな解答が書けたのではないかと思っています。
■ 合格に必要なものについて考えてみる
AASへの通学を決意した頃、つまり試験勉強を開始して3年目に突入したあたりで、ようやく診断士試験というものを冷静に考えられるようになってきました。自分の思い込みで見えなかったものに、色々と気がついてきました。そして3年目の学習は、これらの気づきをベースに学習の方向性を決めていきました。これは、「まず客観的事実を把握し、そこから論理的に考えてみる」という、コンサルタントとしての思考プロセスにも通じるものがあったのではないかと思っています。
■ コンサルタントという言葉から
「中小企業診断士は経営コンサルタントとして唯一の国家資格です」。私はこの言葉の意味を取り違えていたように思います。「経営コンサルタント」などという言葉を聞くと、専門的な知識を持ち、何か特殊なメソッドを用いて、クライアントの目から鱗が落ちるような付加価値の高い提案をするイメージを持っていました。ところが、私の知り合いで実務のコンサルタントをしている人が、特に診断士試験の勉強していないにも関わらず、さらっと事例問題の解答の方向性を説明してしまう(内容は受験校の解答と同じでした)ということがありました。つまりコンサルタントとは「事実を根拠に論理展開する」スキルを持つ人であり、診断士試験に当てはめると、与件文・設問文を踏まえて解答するスキルをもつ人ということになると思います。その私の知り合いも、一般的な知識と、与件文・設問文の情報を整理して、解答の方向性を推察していたのです。
診断士試験の受験生も、学習を始めた頃にふと二次試験の問題を見れば、案外素直に解答の方向性を示せるものではないかと思います。ところが、学習を積み重ね、試験準備のために色々なものを犠牲にすればするほど、試験当日は肩に力が入り、「落とせない」「ミスは許されない」と自分を追い込んでしまうものだと思います。「コンサルタント」という肩書きに惑わされて、隣の人より難しいことを書いて差別化しようとすると、解答の妥当性が低下し、逆に評価されないことになります。私は「当たり前のことを当たり前に書く勇気が必要」だと考えるようになりましたが、合格した後もやはり「与件文・設問文に基づくシンプルな答案で良しとする勇気」が重要だと実感しています。
■ 診断士試験は国家試験であること
国家試験である以上、答案は採点され順位付けされる必要があります。採点プロセスは公表されていませんが、採点者としては、採点した答案の点数について根拠を問われるようなことがあっても良いように、採点基準に則った客観的な採点をしようとするはずです。客観性の源泉は「与件文・設問文」と「一次知識」だと思います。答案の方向性の根拠として、「与件文・設問文にこういう文章が書いてあるから」「こういう一次知識から類推できるから」という論理構成になっていれば、妥当性が高まることになります。
また二次試験は、過去の傾向では設問文あたり 100 文字が多く、最大でも 200 文字です。これは採点しやすい文字数ということもあると思いますが、私は別の意味もあるのではないかと思っています。それは、自分の論理で解答を書こうとすると、言葉足らずになってしまう文字数だということです。採点者と共通のキーワードとして与件文・設問文と一次知識を活用することで、ようやく 100 字程度でもしっかりと論理的な文章が書けるのだろうと思います。
さらに、採点者は約 3,500 枚もの答案を、 2 か月間で採点し順位付けまで行う必要があることも事実です。集計や調整を考えると、一日あたり 100 枚もの採点を行っていると思われます。こんな過酷な採点をしている採点者ですから、たとえ妥当性の高い内容が書いてあったとしても、例えば 3 度読み返して意味が通じなければ点数をもらえない、という可能性があります。書いてあることの意味を理解してもらうためには、@主語述語をしっかり書くこと、Aシンプルな文章構成にすること、B問われていることにだけ素直に答えること、C与件文・設問文と一次知識を活用して分かり易い表現で書くこと、などが求められてくると思います。
■ 合格者の再現答案と声
前述しましたが、正解が発表されない試験制度において、確固たる拠り所は「この再現答案で合格した人がいる」という事実です。と同時に、「なぜそのような解答を書けたのか」「どういう考えで解答を書いたのか」という合格者の声(合格体験記)も、合格に向けた非常に重要な手がかりになると思います。
驚いたことに、合格体験記を書いている人の多くが、「シンプルに思考すること」「わかりやすく書くこと」といった基本的なことの重要さを強調しています。合格者の皆さんは並々ならぬ努力をされたのだと思いますが、「シンプルさ」が決定的な差別化要素になったのではないかと思っています。
■ おわりに
以上、色々と書いてきましたが、ここまでお読み頂いた皆さんに対し、少しでも合格へのヒントをご提示できていれば幸いです。シンプルに書くということは、たとえ頭で理解していても、あの二次試験の極限状態の中で実行することは非常に難しいと思います。「自分自身では納得できる解答を書いているのに・・・」と悩まれている方は、普段の学習を通して、一見稚拙に見えても与件文・設問文と一次知識にこだわった解答を作成する訓練をしてみてはいかがでしょうか。
また、人それぞれ弱点は違うと思います。私は、「自分の論理で答案を作成してしまう」という弱点があったので、シンプルな答案を書くという訓練をしましたが、もっと違う部分を強化しようと考えている方もいらっしゃると思います。ただその時には、診断士試験というものに対して冷静な目を向けて、ゴールに対する仮説を立て、そこから学習の方向性を検討されることをお勧めします。
最後になりましたが、今までお世話になった講師陣の方々や同じ机を並べた皆様、どうもありがとうございました。そしてこれから試験に挑戦される方々、一緒に診断士として活動する日を楽しみにしています。
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